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鼻を擦り合わせる挨拶に込められた意味とは?ニュージーランド「ホーンギ」の深い文化

Tags: 挨拶, ニュージーランド, マオリ, ホーンギ, 文化, 習慣, 異文化

世界の挨拶は驚きの連続

世界には実に多様な挨拶の文化が存在します。私たちは普段、握手やハグ、お辞儀などで親愛の情を表しますが、国や地域によっては、私たちの想像を超えるユニークな方法で人々がコミュニケーションを取っていることがあります。

例えば、頬にキスをしたり、手を胸に当てたり、あるいは全く異なる身体的な接触を伴うものまで、そのバリエーションは尽きません。中でも、初めてその習慣を知った人が思わず「へぇ!」と声を上げてしまうような挨拶の一つに、鼻を擦り合わせるものがあります。今回は、その代表格であるニュージーランドのマオリ族の伝統的な挨拶「ホーンギ」に込められた深い意味を探ります。

マオリ族の伝統的な挨拶「ホーンギ」

ニュージーランドの先住民族であるマオリ族には、「ホーンギ」と呼ばれる独特の挨拶があります。これは単に鼻を軽く合わせるだけではありません。相手と額と鼻を優しく触れ合わせ、互いの呼吸を感じ取るという、非常に象徴的な行為です。

ホーンギは、友人や家族の間だけでなく、重要な儀式や歓迎の場で、訪問者をコミュニティの一員として受け入れる際にも行われます。マオリ族にとって、これは単なる形式的な挨拶ではなく、深い精神的な意味合いを持つものです。

ホーンギに込められた「生命の息吹」の共有

このホーンギという挨拶には、「生命の息吹(ハ)」を共有するという、マオリ族の伝統的な世界観が色濃く反映されています。マオリの伝説では、最初の女性が創造主から鼻と口を通して生命の息吹を与えられたとされています。ホーンギを行うことで、相手とこの聖なる生命の息吹を分かち合い、互いの魂が結びつき、一時的に境界が取り払われると信じられているのです。

つまり、ホーンギは、物理的な接触を通じて、二人の人間が単なる知人から「マナ(力や権威)」を共有する存在へと変化する儀式でもあります。この瞬間に、訪問者はもはや外部の人間ではなく、その土地と人々に属する者として迎え入れられるのです。そのため、ホーンギの後は、言葉を交わさずとも、深い理解と信頼の関係が築かれると考えられています。

他の文化圏にも見られる「鼻の挨拶」

ホーンギは最も有名ですが、実は鼻を擦り合わせる、あるいは鼻を近づけるような挨拶は、世界各地に点在しています。例えば、アラスカやカナダ北部の一部イヌイット族の間では「クーニク」と呼ばれる同様の挨拶があります。これは厳しい寒さの中で、目と鼻だけを露出させた状態で親愛の情を示す方法として発展したとも言われています。また、ポリネシアの他の島々や、一部のアフリカの部族にも類似の習慣が見られます。

これらの挨拶は、それぞれ異なる文化的な背景を持っていますが、共通して身体の重要な部位である鼻を通じて、親密さや尊敬、そして深い絆を表現していることは大変興味深い点です。

挨拶から見える世界の多様な価値観

ホーンギに代表される鼻の挨拶は、単に珍しい習慣として片付けられるものではありません。そこには、言葉だけでは伝えきれない、その文化が大切にする価値観や世界観が凝縮されています。生命の共有、信頼、そして他者を受け入れる寛容さ。これらの要素は、挨拶という行為を通じて私たちに深く語りかけてくるようです。

私たちは、異なる文化の挨拶を知ることで、世界の多様性や、それぞれの文化が育んできた独自の哲学に触れることができます。次に誰かと会う時、どのような挨拶を交わすのか、少しだけ意識してみると、新たな発見があるかもしれません。